医療現場の効率化に向けたAI-OCR実証実験
福岡県福岡市に拠点を置く株式会社United Vision & Company(以下、UV&C)と、丸紅I-DIGIOグループが医療・介護領域におけるAI-OCR(光学式文字認識)に関する実証実験を実施することが発表されました。この実証実験は2024年12月から2025年2月までの約3ヶ月間にわたって行われ、医療ドキュメントのデータ化や情報抽出の効率化を目指しています。
働き方改革の必要性
日本の医療現場では、長時間労働が常態化しており、特に医師にかかる事務作業の負担が大きな問題となっています。兵庫県の「医師の働き方改革プロジェクトチーム」の報告書によると、県立病院勤務医の実態調査でカルテ記載や会議、サマリー作成などが時間外労働の主要因であることが判明。特に文書作成や会議関連業務は、時間外労働の20~30%を占めています。これにより、医師の健康や医療サービスの持続可能性が脅かされています。
こうした背景から、医療DXの推進が求められており、医療文書の作成・管理業務の効率化が急務となっています。UV&Cと丸紅I-DIGIOグループは、AIおよびクラウド技術を活用し、医療現場での業務負担軽減を目指した実証実験を行うに至りました。
実施内容と成果
本実証実験では、健康診断個人票やフェイスシート、診療情報提供書、検査結果報告書、薬剤情報提供書の5種類の医療文書が対象となります。これらの文書に記載された情報を自動で抽出・分類する処理フローを構築し、AI技術を駆使して、手書き文書も含めた効率的な情報のデジタル化を推進しました。
OCRエンジンによる文字認識処理と自然言語処理モデルを組み合わせることで、異なるフォーマットへの対応力を高め、手書き文字の認識精度も検証。結果として医療文書に含まれる基本情報や病歴情報の精度高く抽出できることが確認されました。この取り組みは医療文書作成や情報整理の労力を大幅に削減し、次世代の診療支援ツールとしての可能性を感じさせるものです。
今後の展望と技術の進化
UV&Cと丸紅I-DIGIOグループは、本実証成果を基に実装に向けた要求定義を完了し、現在は要件定義フェーズへ移行しています。今後は開発プロジェクトの本格化を図り、商用化を目指すとともに、診療の質向上や患者中心の医療の実現に寄与することを目標としています。
この取り組みにより、医療現場の業務効率化に加え、患者情報の可視化や診療支援といった新たな価値の創出が期待されます。今後もAI技術が医療の現場にどのようにフィットしていくかが注目される中、UV&Cと丸紅I-DIGIOグループの活動はその先駆けとなるでしょう。
企業情報
株式会社United Vision & Companyは、医療・介護の効率化を目指し、情報共有システム「Pubcare」を提供しています。一方、丸紅I-DIGIOグループはICT領域に強みを持つ企業として、幅広いネットワークを活用して成長戦略を推進しています。
また、両社はこの実証実験を通じた成果をもとに、さらなる技術開発や社会実装に向けた取り組みを続ける意向を示しています。医療分野での技術革新が、どのように患者のケアや医療従事者の働き方を変えていくのか、今後の動向に期待が高まります。