訪問看護の現場が抱える熱中症対策の課題とその実態
猛暑が日常となっている日本の夏、2025年の法改正により職場での熱中症対策が事業者に義務づけられましたが、実際の訪問看護の現場ではその対策がいかに困難であるかを掘り下げていきます。
喫緊の課題と調査の経緯
在宅医療のDX支援を行う株式会社eWeLLは、全国の訪問看護従事者596名を対象に「熱中症対策」に関する緊急アンケート調査を実施しました。この調査から見えてきたのは、法律と現場の意識の乖離、そして従事者が抱える深刻なジレンマです。調査結果によれば、36.7%が業務中に熱中症(疑いを含む)を経験している一方で、67.4%が新しい法改正を「よく知らない」と回答しています。これは、熱中症対策の認知度と実践のギャップを示すものです。
訪問看護における熱中症対策の現実
特に、訪問看護に従事する看護師たちは、熱中症対策を自らの責任として捉えています。事業所からのサポートは不十分で、自己管理が求められる場面が多いのです。ある看護師は「対策は個人に任されているため、熱中症になっても自己責任と言われている」と語ります。彼らは、自ら水分を用意したり、冷却グッズを携帯するなど、個人の努力に頼らざるを得ないのが現状です。
加えて、訪問先の利用者宅でのケアも大きな障壁となっています。高齢者の中には「エアコンを使いたがらない」との声が多く、看護師たちは利用者の健康を守るために葛藤に直面しています。エアコンを使うことが「もったいない」と感じる利用者に対し、看護師は強く推奨できないというジレンマがあるのです。
法改正の認知度と情報の不足
2025年6月1日には法改正が施行され、熱中症の自覚症状に関する報告体制の整備や具体的な措置手順の策定が義務化されました。しかし、現場の多くの従事者はその内容を知らないという現状があります。調査では、わずか32.5%が法改正を「よく知っている」と回答し、67.4%が十分に理解していないとされました。これは、法律の趣旨が現場に浸透していないことを示しています。
今後への展望
訪問看護に従事する方々は、安全確保と利用者の健康への配慮という二重の責任を果たさなければなりません。eWeLLでは、この調査結果をもとに、デジタルトランスフォーメーション(DX)を活用した業務支援を行う方針を打ち出しています。具体的には、訪問予定の見直しや、移動負担を軽減するための新たな仕組みを検討し、リアルタイムの情報共有でスタッフ一人ひとりの負担を軽減していくことを目指しています。また、熱中症対策に関する情報発信を通じて、より多くの人々に現状を知ってもらい、訪問看護ステーションの持続可能な運営につなげる取り組みを進めていく考えです。
まとめ
訪問看護の現場で熱中症対策がどれほど困難であるかが浮き彫りとなりました。法改正が施行されたものの、対策の実効性を高めるためには、医療従事者が法律や制度について適切に理解し、実践できるような情報提供の仕組みが必要です。また、eWeLLのDX支援を通じて、現場の安全確保と質の高いケアが実現されることを期待します。